身体性とは
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1950~1960年代、認知科学者たちは人間の思考、記憶、判断、言語、計画といった認知機能を、当時発展しはじめたコンピュータの情報処理プロセスになぞらえて解明しようとした。
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しかし、コンピュータをもとにしたモデルでは説明できないことが次第に指摘されはじめた。
3. 身体性とは
身体性を表す"3つのE"(Robbins, et al. 2008)
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1.
Embodied mind(脳と身体の相互作用)
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2.
Embedded mind(主体と環境の相互作用)
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3.
Extended mind(主体と他者の相互作用)
3. 身体性とは
身体性研究の例:アフォーダンス
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人間は実世界との関わりの中で、様々な身体的行為の可能性を無意識的に獲得している。
・この段差は登れる。
・この隙間は飛び越えられない。
・これくらいの箱なら片手でつかめそう。
3. 身体性とは
身体性研究の例:アフォーダンス
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アフォーダンスは環境が与える可能性であり、
環境が動物に提供する「価値」(佐々木, 1994)である。 -
アフォーダンスの概念を提唱したギブソンは、知覚と運動は環境の接点として重要な役割を果たし、密接に連携していると主張した(鍋島, 2016)。
3. 身体性とは
身体性研究の例:ミラーニューロン
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ミラーニューロンとは、サルの実験から発見された、他者の行為と自己の行為の両方に反応するニューロン(Rizzolatti et al., 1996)。
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サルに紙を引き裂かせ、仲間のサルに
①その姿を見せた(音は聞かせない)とき、
②引き裂く音を聞かせた(引き裂く姿は見せない)とき、
③引き裂く音と姿を見て聞かせたとき、
他者の"引き裂く"行為に対応するミラーニューロンが反応した(Rizzolatti et al., 2004)
3. 身体性とは
身体性研究の例:感情と身体性

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古くから「悲しいから泣く」のか(キャノン・バード説)、「泣くから悲しい」(ジェームズ・ランゲ説)のか、論争が続いていた。
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最近では、意図的に作った笑顔で、感情を明るくできることが実証されている(Kleinke, 1998)。
3. 身体性とは
身体性研究の例:感性と身体
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喫茶店で注文する品が決まったところでメニューを閉じると、閉じなかった場合よりも選んだ品に対する満足感が高まる(Gu, 2013)。
3. 身体性とは
身体性研究の例:感性と身体

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歌曲を歌唱中の歌手と対面聴取中の聴き手の呼吸を測定したところ、間の箇所において息の合う現象が見られた(中村, 2002)。
参考文献
- 佐々木正人. "新版 アフォーダンス", 岩波書店, 2015.
- 鍋島弘治朗. "メタファーと身体性", ひつじ書房, 2016.
- アンディクラーク. "現れる存在 脳と身体と世界の再統合", NTT出版, 2012.
- Rizzolatti, Giacomo, and Laila Craighero. "The mirror-neuron system." Annu. Rev. Neurosci. 27, 169-192, 2004.
- Kleinke et al. "Effects of self-generated facial expressions on mood." Journal of Personality and Social Psychology 74.1, 272, 1998.
- Gu, Yangjie, Simona Botti, and David Faro. "Turning the page: The impact of choice closure on satisfaction." Journal of Consumer Research 40.2, 268-283, 2013.
- 中村敏枝. "「間」の感性情報" 日本ファジィ学会誌 14.1, pp.15-21, 2002.