第10回 思考発話法による評価
ペアになって互いの作品を体験し、思考発話法(Think-Aloud Protocol)を使って改善点を発見します。
今回のゴール
- 思考発話法の手法を理解し、実践する
- 他の受講者に作品を体験してもらい、ユーザーの視点からフィードバックを得る
- 発見した課題をもとに改善計画を立てる
準備するもの
| アイテム | 説明 |
|---|---|
| 自分の作品 | 音が出てセンサで操作できる状態にしておく |
| ノート・筆記用具 | 観察記録用 |
| 作品説明シート | 前回作成したもの |
思考発話法とは
概要
思考発話法(Think-Aloud Protocol) は、ユーザビリティ評価の代表的な手法の一つです。体験者に作品を使ってもらいながら、頭の中で考えていることをそのまま声に出してもらう ことで、直感的な反応や困惑ポイントを発見します。
なぜ思考発話法を使うのか
| 通常のフィードバック | 思考発話法 |
|---|---|
| 体験後に感想を聞く | 体験中にリアルタイムで思考を聞く |
| 記憶に頼るため正確でないことがある | その瞬間の率直な反応が得られる |
| 「良かったです」と曖昧になりがち | 「これは何だろう?」と具体的な反応がわかる |
| 問題点を忘れてしまうことがある | 操作に迷った瞬間がわかる |
思考発話法のメリット
- 少ない人数(1〜2人)でも有用なフィードバックが得られる
- 作品の「わかりにくさ」が具体的に発見できる
- 制作者が気づかなかった問題や面白さが見つかる
実施手順
役割分担
- 評価者(体験する人): 相手の作品を体験しながら、考えていることを声に出す
- 観察者(制作者): 評価者の発言・行動・表情を観察し、メモを取る
手順
1. 準備(2分)
- 作品をセットアップする(micro:bit の接続、Pd パッチの起動)
- キャプションや作品説明シートは 見えない場所に置く(最初は説明なしで体験してもらう)
- 観察記録シートを手元に用意する
重要:最初は説明しない
思考発話法では、最初に操作方法を説明しません。「説明なしでどこまで伝わるか」を確認することが目的です。評価者が完全に行き詰まった場合のみ、最小限のヒントを出しましょう。
2. 思考発話法の説明(1分)
観察者は評価者に以下のように依頼します。
「これから私の作品を体験してもらいます。体験中は、頭の中で考えていることをそのまま声に出してください。例えば、『これは何だろう?』『ここを触ったら音が変わった』『次はこうしてみよう』など、思ったことをそのまま言葉にしてもらえると助かります。」
3. 体験と観察(5分)
評価者がやること:
- 作品に自由に触れる
- 考えていることを声に出し続ける
- 「今何をしようとしている」「何が起きた」「どう感じた」を話す
観察者がやること:
- 評価者の 発言内容 をメモする
- 評価者の 表情 を観察する(笑顔、困惑、驚きなど)
- 評価者が 操作に迷った場面 を記録する
- 沈黙が続いたら「今何を考えていますか?」と促す
- 評価者が完全に行き詰まったら最小限のヒントを出す
促し(プロンプティング)のフレーズ例
- 「今何を考えていますか?」
- 「何をしようとしていますか?」
- 「今の操作でどんなことが起きましたか?」
- 「何か気になったことはありますか?」
4. 体験後のインタビュー(3分)
体験が終わったら、以下の質問をしましょう。
- 全体の印象 --- 「体験してみてどうでしたか?」
- 面白かった点 --- 「特に面白いと感じた部分はどこですか?」
- わかりにくかった点 --- 「操作に迷った部分はありましたか?」
- 改善のアイデア --- 「こうなったらもっと面白いと思うことはありますか?」
5. 役割交代
評価者と観察者を交代して、同じ手順を繰り返します。
観察記録シート
以下の形式で記録を取りましょう。
テンプレート
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思考発話法 観察記録シート
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【評価者名】
【作品名】
【日時】
■ 体験中の記録
| 時間 | 評価者の行動 | 評価者の発言 | 表情・反応 |
|------|------------|------------|----------|
| 0:30 | micro:bitを持ち上げた | 「これを動かすのかな?」 | 少し戸惑い |
| 1:00 | 左右に傾けた | 「おっ、音が変わった!」 | 驚き・笑顔 |
| 1:30 | 手で覆った | 「暗くすると…あ、違う音になった」 | 興味 |
| 2:00 | ボタンを探している | 「他に何かできるかな…」 | 探索中 |
■ 良かった点・面白かった点
■ わかりにくかった点・操作に迷った点
■ 改善のアイデア(評価者から)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━記録のポイント
分類して整理する
記録した内容を以下の3つに分類しましょう。
良かった点
- 「面白い!」と言った場面
- 笑顔や驚きの反応があった場面
- 直感的に操作できた場面
わかりにくかった点
- 「これは何?」と言った場面
- 操作方法がわからず止まった場面
- 意図と異なる操作をした場面
- 「あれ?」と困惑した場面
改善のアイデア
- 評価者から出たアイデア
- 観察から気づいた改善の可能性
- 「こうすればもっと伝わるかも」というひらめき
改善計画の立案
課題の優先順位付け
発見した課題を以下の基準で優先順位をつけます。
| 優先度 | 基準 | 例 |
|---|---|---|
| 高 | 操作方法が全くわからない | センサの使い方が直感的でない |
| 高 | 作品のコンセプトが伝わらない | 何を表現しているかわからない |
| 中 | 操作はできるが改善の余地がある | 音の変化がもう少し大きいとよい |
| 中 | 体験の満足度を上げられる | エフェクトを追加するとよい |
| 低 | 細かい調整 | 音量バランスの微調整 |
改善策のリストアップ
各課題に対して、技術的に対応可能な改善策を考えましょう。
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改善計画シート
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課題1:(例: 傾けても音の変化が小さい)
優先度: 高
改善策: センサ値のマッピング範囲を広げる
Pd での対応: [* 3] でセンサ値を3倍にする
課題2:(例: 何を表現しているかわからなかった)
優先度: 高
改善策: 環境音(波の音)をバックグラウンドに追加する
Pd での対応: [readsf~] で波の音のファイルをループ再生する
課題3:(例: ボタンの機能がわからない)
優先度: 中
改善策: ボタンを押したときにLEDで表示を変える
micro:bit での対応: ボタンAが押されたときにアイコンを変更する
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━次回以降に向けて
改善計画をもとに、第11回・第12回で作品をブラッシュアップしていきます。すべての課題を解決する必要はありません。優先度「高」の課題 を中心に対応しましょう。
チェックリスト
- [ ] 思考発話法の手順を理解した
- [ ] ペアの相手の作品を体験し、声に出して思考を伝えた
- [ ] 観察記録シートに記録を取った
- [ ] 良かった点・わかりにくかった点を整理した
- [ ] 改善計画を立てた