第11回 マルチチャンネルオーディオ再生
複数のスピーカーを使った音の空間的な演出方法を学びます。展示に向けて、マルチチャンネルオーディオの基礎を身につけましょう。
今回のゴール
- マルチチャンネルでの音響出力方法を学び、空間的な音の演出を実現する
- サウンドスケープ・空間音楽・アンビエント音楽の概念を知る
- Pd で4チャンネルオーディオ再生を設定する
- 展示空間のスピーカー配置を理解する
準備するもの
| アイテム | 説明 |
|---|---|
| PC | Pure Data がインストール済み |
| マルチチャンネルオーディオインターフェース | 4ch以上の出力対応 |
| スピーカー × 4台 | 展示用 |
| スピーカーケーブル | 必要な長さを確認 |
| ヘッドホン | 個人での作業時に使用 |
サウンドスケープ・空間音楽・アンビエント音楽
サウンドスケープ
サウンドスケープ(Soundscape) は、「音の風景」を意味する言葉です。カナダの作曲家 R. Murray Schafer が提唱した概念で、私たちを取り巻く環境音を芸術として捉える考え方です。
- 街の喧騒、鳥のさえずり、川のせせらぎなど、あらゆる環境音が対象
- 「聞く」ことへの意識を高める サウンドウォーク という実践手法がある
- 音環境そのものをデザインするという発想
空間音楽
空間音楽 は、スピーカーの配置を活かして、音を空間的に表現する音楽です。
- 複数のスピーカーから異なる音を出すことで、音が空間を移動する体験を作れる
- リスナーを音で包み込む 没入感 のある体験が特徴
- 電子音楽やサウンドインスタレーションでよく用いられる
アンビエント音楽
アンビエント音楽(Ambient Music) は、環境や雰囲気を重視した音楽ジャンルです。
- 英国の音楽家 Brian Eno が概念を確立したとされる
- 「聴くこともできるし、無視することもできる音楽」という特徴
- ゆっくりとした変化、反復、持続音が多用される
- サウンドアート作品の音響設計に大きな影響を与えている
参考:空間音響を活用した作品例
- サウンドインスタレーション: 美術館やギャラリーでの展示作品で、観客が空間を歩くと異なる音が聞こえる
- マルチチャンネルコンサート: 4台以上のスピーカーで囲まれた空間での演奏・上演
- インタラクティブ空間: センサと連動して、人の動きに応じて音が空間内を移動する
オーディオ出力の基礎
モノラル・ステレオ・マルチチャンネルの違い
| 方式 | チャンネル数 | 特徴 |
|---|---|---|
| モノラル | 1ch | 1つのスピーカーから出力。音の定位なし |
| ステレオ | 2ch | 左右のスピーカーから出力。左右の定位が可能 |
| 4ch(クアッド) | 4ch | 前後左右のスピーカーから出力。空間的な定位が可能 |
| サラウンド | 5.1ch以上 | 映画館のような立体音響 |
Pd での複数チャンネル出力設定
1. オーディオ設定を開く
- Pd メニューの 「メディア」→「オーディオ設定」 を選択する
- 出力デバイス にマルチチャンネル対応のオーディオインターフェースを選択する
- 出力チャンネル数 を
4以上に設定する - 「OK」を押して設定を適用する
オーディオインターフェースの確認
PCの内蔵スピーカー出力は通常2チャンネル(ステレオ)までです。4チャンネル以上の出力には、マルチチャンネル対応のオーディオインターフェースが必要です。授業で使用する機材を確認してください。
2. dac~ の複数チャンネル指定
[dac~] オブジェクトに引数を付けることで、出力先のチャンネルを指定できます。
[dac~ 1 2] ← チャンネル1と2に出力(通常のステレオ)
[dac~ 3 4] ← チャンネル3と4に出力
[dac~ 1 2 3 4] ← チャンネル1〜4すべてに出力チャンネル番号の対応:
| チャンネル | 一般的なスピーカー位置 |
|---|---|
| 1 | 前方左(Front Left) |
| 2 | 前方右(Front Right) |
| 3 | 後方左(Rear Left) |
| 4 | 後方右(Rear Right) |
Pd での4chオーディオ再生
基本構成:4つのスピーカーで異なる音源を再生する
[else/play.file~] を使って、4つの音源ファイルをそれぞれ異なるスピーカーから再生します。

パッチの構成:
- 4つの
[else/play.file~]でそれぞれ異なる音源ファイルを読み込む4chsample_L.wav— 左フロント4chsample_R.wav— 右フロント4chsample_Ls.wav— 左リア4chsample_Rs.wav— 右リア
- 各
[else/play.file~]の引数に1 1を指定してループ再生・自動再生を有効にする - 各音源の出力を
[*~]で音量調整する - 4つの出力を
[else/out4~]に接続する
音源ファイルの準備
4ch 用の音源ファイルは、パッチと同じフォルダに置いてください。環境音(風、水、鳥の声など)をそれぞれ別のスピーカーから流すことで、空間的な音の広がりを作ることができます。
4ch パンニング — else/pan4~
[else/pan4~] を使うと、2D 空間上の位置を指定して4つのスピーカーに音を振り分けることができます。

パッチの構成:
[noise~]などの音源を[else/pan4~]に入力する[else/slider2d]で X/Y 座標(-1〜1)を操作する[unpack f f]で X と Y の値を分離し、[else/pan4~]の第2・第3インレットに送る[else/pan4~]の4つのアウトレットを[else/out4~]に接続する
[else/slider2d] をマウスでドラッグすると、音源の位置がリアルタイムに変化します。micro:bit の加速度センサの X/Y 値を入力すれば、傾きで音の位置をコントロールすることもできます。
音源の回転
4つのスピーカーの間を音が自動的に回転するように移動させることもできます。

パッチの構成:
[noise~]などの音源を用意する[else/rotate~ 4]に音源を入力する — このオブジェクトが4チャンネル間で音を自動的に回転させる- 回転速度は
[else/float2sig~ 100]などで制御する(値が大きいほど速く回転) - スライダ(-0.5〜0.5)で回転速度と方向を操作する — 正の値で時計回り、負の値で反時計回り
- 4つのアウトレットを
[else/out4~]に接続する
回転速度の調整
[else/float2sig~] の引数(例: 100)はシグナルへの変換の滑らかさです。回転速度はスライダの値で決まります。0 で停止、値を大きくすると高速回転します。作品のテンポに合わせて調整しましょう。
展示空間の準備
スピーカー配置の基本
4チャンネルの場合、体験者を中心に正方形(または長方形)にスピーカーを配置します。
【前方】
SP1 ─────── SP2
| |
| 体験者 |
| ● |
| |
SP3 ─────── SP4
【後方】配置のポイント:
- スピーカーの向き: すべてのスピーカーを体験者の方向(中央)に向ける
- 距離: できるだけ均等な距離に配置する(1.5m〜3m 程度)
- 高さ: 体験者の耳の高さに合わせる(椅子に座る場合は座った状態の耳の高さ)
- 壁からの距離: スピーカーを壁に密着させると低音が強調されるため、30cm 以上離す
ケーブルの取り回し
安全上の注意
- ケーブルは 養生テープで床に固定 し、つまずき事故を防ぐ
- 電源ケーブルとオーディオケーブルを 束ねない(ノイズの原因になる)
- ケーブルの長さに余裕を持たせ、引っ張られても抜けないようにする
音量バランスの調整方法
- 各チャンネルに 同じテスト音 を順番に流す(例:
[osc~ 1000]) - 体験位置(中央)に立って、各スピーカーからの音量が 均等に聞こえるか 確認する
- 音量が大きいスピーカーは Pd 側の
[*~]で下げる - 全チャンネルから同時に音を出し、自然に聞こえるか確認する
作品への応用
マルチチャンネル出力を自分の作品に取り入れましょう。
| アイデア | 実現方法 |
|---|---|
| 音が体験者の周りを回る | [phasor~] で4ch ローテーション |
| センサで音の位置が動く | 加速度 X → 左右パン、加速度 Y → 前後パン |
| 各スピーカーから異なる音 | 4つの音源をそれぞれ別チャンネルに出力 |
| 環境音で空間を包む | ノイズや環境音を4ch で包囲 |
チェックリスト
- [ ] サウンドスケープ・空間音楽・アンビエント音楽の概念を理解した
- [ ] モノラル・ステレオ・マルチチャンネルの違いを理解した
- [ ] Pd のオーディオ設定で複数チャンネル出力を設定できた
- [ ]
[dac~]の複数チャンネル指定方法を理解した - [ ] 4ch パンニングの仕組みを理解した
- [ ] 展示空間のスピーカー配置の基本を理解した
- [ ] 自分の作品にマルチチャンネルを応用するアイデアを考えた